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東京地方裁判所 昭和61年(合わ)110号 判決

主文

被告人Aを懲役六年に、被告人Bを懲役三年に処する。

被告人Aに対し、未決勾留日数中八〇日をその刑に算入する。

理由

(犯行に至る経緯)

被告人Aは、昭和五〇年三月ころ大森年一が主宰する右翼団体国粋青年隊に入隊して天皇を中心とする国体の護持と反共主義を標榜する右翼思想に強く共鳴するにいたり、昭和五四年秋ころからは同隊事務局長として右翼活動に従事していたもの、被告人Bは、昭和五二年七月ころ被告人Aの創設した神奈川県青少年愛国者同盟の会員となつたことから同被告人の感化を受け、同年一一月ころ前記国粋青年隊に入隊し、以後同被告人と共に右翼活動を続け、昭和六〇年九月に一旦同隊を脱退したが、その後も同被告人から物心両面の援助を受けていたものであるところ、被告人Aは、昭和六一年三月二五日に極左団体の戦旗共産同と目される者らの手で皇居等に、同月三一日には革労協と目される者らの手で東宮御所にそれぞれ火炎弾、金属弾が発射されるというゲリラ事件の続発に悲憤こう慨し、戦旗共産同の集会の機会を狙つてダイナマイトを用いてその構成員らを殺傷することによつて極左団体に対する警告と同種事件の再発を阻止しようと決意するに至つたが、たまたま同年四月一七日栃木県小山市内の遊園地で開いた花見の席で極左団体の過激な活動が話題となつた際、被告人Bも極左ゲリラ事件に激しい憤りを感じこれに一撃を加えたい心情を抱いていることを知り、翌一八日国鉄宇都宮駅から同福島駅へ向かう東北新幹線の車中等において同被告人に自己の前記決意を打ち明けたところ、同被告人もこれに賛同して時限式爆弾を用いることを提案し、ここに被告人両名は同月二九日に予定されていた戦旗共産同による天皇在位六〇年式典粉砕闘争の集会場に時限式爆弾を事前に設置して集会中にこれをさく裂させ、同構成員らを殺傷しようとの意思を相通じた。

この謀議に基づき、被告人Bにおいて目覚し時計を改造して時限装置を作成し、被告人Aにおいてかねて所持していたダイナマイト、電気雷管等を準備して同月二七日東京都港区六本木三丁目二番七号所在の六本木プリンスホテル九三七号室に宿泊した上、翌二八日午後一〇時三〇分ころまでの間に、被告人両名は、時限式爆弾を完成させ、戦旗共産同の集会予定地である宮下公園と革労協の集会予定地である檜町公園の下見等をした後、同区南青山一丁目一〇番二号所在のレストラン「薔薇の屋敷」で落ち合い、宮下公園は警察の警備が厳重を極めていたため不可能と判断し、当初の計画を変更して警備の薄い革労協の集会場である檜町公園に時限式爆弾を設置して同構成員らを殺傷することの最終的な共謀を遂げ、同月二九日午前零時ころ被告人Bにおいて情を知らない甲野花子と共にアベックを装つて檜町公園に赴いた。

(罪となるべき事実)

被告人両名は、共謀の上、治安を妨げ、かつ、人の身体、財産を害する目的をもつて、被告人Bにおいて、昭和六一年四月二九日午前零時一五分ころ、東京都港区赤坂九丁目七番九号港区立檜町公園公衆便所(男子用)において、前記革労協の構成員ら多数が集会予定の同公園内地中に埋設して同日正午ころ爆発させて使用するための時限式手製爆弾一個(ブリキ製のり缶にダイナマイトを詰め、これに電気雷管、乾電池、目覚し時計等からなる時限装置を接続させたもの)の時限装置を操作していた際、誤つて電気雷管に電流を通じさせてこれを爆発させたため、その爆発音を聞いて同所に駆けつけた自衛官に発見されて警察官に通報され、もつて、爆発物を使用せんとするの際発覚したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人両名の判示所為はいずれも刑法六〇条、爆発物取締罰則二条に該当するところ、被告人両名について各所定刑中いずれも有期懲役刑を選択し、被告人Aについてはその所定刑期の範囲内で懲役六年に、被告人Bについては、なお犯情を考慮し、刑法六六条、七一条、六八条三号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で懲役三年にそれぞれ処し、被告人Aについて、同法二一条を適用して未決勾留日数中八〇日をその刑に算入することとする。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり、約一〇年前後共に右翼活動を続けていた被告人両名が、極左グループの火炎弾等を用いたゲリラ活動の対象が自己らの尊崇してやまない皇室にまで及んできたことに強い衝撃を受け、警告と同種事件の再発阻止のため極左グループの集会場所に時限式爆弾を仕掛けてその構成員ら多数を殺傷しようとした事実である。なるほど、近時左翼過激派による飛翔物発射等の無法極まる犯行が続発し、これの禁圧と厳重処罰が急務であるとはいえ、それは専ら国家の手によつて適正な手続の下に行なわれるべきであり、被告人らの本件行為は、その拠つて立つ思想、信条や本件犯行の動機のいかんを問わず、人命を軽視し、自己と考えを異にする者を直接暴力によつて抹殺しようとしたもので、わが憲法秩序に背馳し、到底許容することができない。又、その態様も、判示のとおり、綿密周到な準備のもとに、一挙に多数人の殺傷を目的とした極めて危険、過激な犯行であること、現在この種犯罪の追随、伝播性とその一般予防についての配慮を要すべき社会情勢にあることをも勘案すると、この種事案に対しては厳罰をもつて臨むべきといわざるを得ない。特に、被告人Aにおいては、爆弾テロの計画を被告人Bへ持ち掛けるとともに、自らダイナマイト、電気雷管、資金等を調達するなど本件犯行の中心的立場にあり、被告人Bにおいても、被告人Aの計画に積極的に加担して時限式爆弾にすることを提案し、自ら時限装置を作成した上、爆弾設置の実行行為を担当しようとするなど共にその刑責は誠に重大であるが、本件が偶然にも結果的には被告人B以外の人身に実害が発生しなかつたこと、同被告人は自ら招いた不幸であるとはいえ、誤爆により両眼失明、右左各第二、第三、四指切断の重傷を負つたこと、前科、前歴がないことなど、被告人両名につき酌むべき情状もあるので、これら一切の事情を考慮して、主文の量刑をした。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官米澤敏雄 裁判官仲田章 裁判官谷 健太郎)

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